Your Naked Ghost Comes Back At Night And Flies Around My Bed

私の腕時計には日付が表示される機能がある。

別にデジタルとかそういうわけではなく半手動半自動、みたいな実にアナログな奴であるが、先日野暮用で隣県に行ってからどうもその機能の調子が悪く、勝手に日付が進んでしまったり、曜日が勝手に進んでしまったり、という事態が続いている。日本列島、狭いとは言いながら軽く日付変更線があるのか、それとも私が住まう県と隣の県の間には誰もが認識していないミステリーゾーンがあって時間が勝手にずれていったりする、とかそういう話があったりするのだろうか。

まあ、そんなオカルトじみた話は置いておいて、実際非常に難儀しているのである。曜日は合っているのに日付が次の日だったり、両方とも次の日になっていたりして全くもって正確な日付がわからない。挙句の果てにはその日付を調整しようとして間違えて時間までいじってしまって結局今何月何日何曜日の何時だか皆目見当がつかない(あ、これは言いすぎなんだけど)事態になってしまったりしてまったく時間から見捨てられてしまったような状態になってしまったりしている。

否、時間から見捨てられているわけではない、進んでいるのだから。寧ろ私が時間を見捨て、時間の先を行き、時間が私の後を追いかけてくるような事態になっているのだから。つまり、私が時間に先んじるあまりに時計がまさに私についてこようとしていて、それ故私が置き去りにしてきた他の者ども、言い換えれば世界を腕時計までもが見捨てて、私とともに時代の先を歩んでいる、否、突っ走っている状態になっている、と言うこともできるのかも知れない。2年近く使ってきてやっと腕時計が「私」という人間を理解し、同化しようとしていることの表れがこの今の状態なのである。嗚呼時間に先んじることも大変だ・・・。

って疲れて妄想がバーストしているのだがOnの「Your Naked Ghost Comes Back At Night」を聴く。元々は2003年にレコーディングされリリースされていた音源の再発である。Sylvain ChauveauとSteven Hessのユニットによるアルバムである。今生きていてSylvain Chauveauが作る音楽を聴かずに死んで行くことは実に勿体ないこととしか言いようがないわけであるが、この作品もその思いを強くすること間違いない作品である。Sylvain氏はこの作品ではプリペアードギターとエレクトリックギター、そしてPan Americanとかとの共演で御馴染みのSteven氏はパーカッションとピアノを担当しているのだが、最早誰が何をやっていようとも関係ないような、そういう無慈悲なまでに加工されたドローン大会である。とは言えそのドローン具合にはヴァラエティがあって地を這うようなドローンから高く飛翔するようなドローンまで(何か語義矛盾があるような気もしないでもないがそういう感じなのである)結構色々な音色が楽しめる作品である。しかし見事に楽器の音と識別できるような音が徹頭徹尾排除されたようなアルバムで結構最近聴いた中では「何も起きない系」極北気味のアルバムである。しかし、その何も起きなさぶりには感動せざるを得ないのであった。その割にはハードな印象は全くなく、寧ろ何だか凄く繊細な印象が強い、美しい作品である。