When All's Well

先日私は世渡りが上手だ、ということを職場の人から言われた。

悪気があったわけではないらしいのだが、あまりと言えばあまりの言葉に私は激昂し、壁に相手をおしつけ顔面を勢い任せに拳で数回殴り、その後倒れたところに足蹴りを数回喰らわせ、その後は無理やり口を開かせ、そこにあった鋏でそんなことを二度と言えないように舌を切り、流れ出る鮮血もそのままに今度は足を持って引きずり、ちょうど開いていた窓から相手を落としてやったのだった。

ということは勿論やってなんかおらず、そうですかねえ、と返答するに留めておいた。ま、どうでもいいっちゃどうでもいい。しかし、そうなのか、私のパブリッキミージ!(John LydonがKeith LeveneとJah WobbleとJim Walkerの演奏に乗せて叫んだ感じで)は?こんなにも私が血を流し、無様に顔面を腫らし、足を引きずり、何度も倒れ込みながら日々歩いている、というにも関わらず外面的にはそう見えるのか?

まあ、逆にそれはそれで良い。今では何やらストレートに物を言い、素直な感情をぶつけ、感謝し、涙し、ということが持て囃されているようであるが(気がつくと、おいしいパスタ作ったお前に向けてだったりして結構ずっとそうだったのかも知れないけれどとくにこの1年強はそれが顕著で、僕や私が欲しいのはソレじゃないんだ、と歌ってもらうまでなかなか落ち着かなかった日々である)、それとは逆に私はそういう感じでもなく、世渡りが上手で、上手く泳いでいる、と見えるらしいなら、それはそれで構わない。誤解されているなら、その誤解を一生解くこともなく生きてみせてやろう。それはそれで構わない。

しかしびっくりしたなあ、あんなこと言われて。Everything But The Girlの「Love Not Money」を聴く。いやー、何というか、デラックス再発にはもう正直飽き飽きだぜ!とかっこよく宣言したいところではあるのだが、ついついグッと来る内容だと買ってしまうのだよなあ。こんな同じCDを複数回買う羽目になるよりも、もっと広く沢山まだ聴いたことのない音楽に触れた方が良いだろうというのは百も承知なのだが、シングルB面とかBBCセッションとかデモとかまでついてリマスターで、ってなると冷静でいられるわけがないのだ。85年リリースの彼と彼女のセカンドアルバムもファースト同様Eden: Deluxe Edition2枚組で再発されているわけである。私はサードからがリアルタイムなわけでこれは後追いで聴いたものだが、華やかなホーンやキラキラしたギターが印象的でファーストよりももっとからっと鮮やかなアルバムである。それでいてジャジーな感じもこなれて来て、更に歌詞はより一層政治的になり、という実に80年代中期のUKの空気が詰め込まれているアルバム、だと思う(私の中ではThe Style Councilとかのエアチェックした音源と雑誌の記事から当時のそういった印象が構成されているわけだから、人それぞれだとは思うのだが)。落ち着いた雰囲気もしっかりあるけれども軽快なポップチューンもより洗練された感じであって、このアルバムからは所謂ネオアコ的なEBTGの姿が感じ取れる筈である。まあ、考えてみるとこのアルバムくらいな気もするのだけれども。多分にそれはギターの音色のせいもあるのだが、Neil Scottなのだ弾いてるのが。この後FeltにPeter AstorにNick Heyward、という間違いない絡み方をする彼のギターが凄く良い。更にベースはPhil MoxhamでドラムスはJune-Miles Kingston、という面子的にも豪華なアルバムだったりする。アルバム本編が1曲たりとも駄曲がないのは言うまでもないが、シングルのB面も完璧であり、デモは当然デモで簡素なのだがその分インティメットな空気が増している。BBCセッションは、Tracey Thornの歌も含め若干の不安定さはあるが、スタジオ盤以上の瑞々しさであるから2枚組で買って良かった、とほっと胸を撫で下ろす。