Blues Look The Same

白と黒、M~XLのサイズ展開ですよろしく!2022年はAOBAできると良いなあー。その際には是非皆様このTシャツ着用の上でご参集いただきたい!
 

『鑑識レコード倶楽部』と言う本

鑑識レコード倶楽部

鑑識レコード倶楽部

Amazon

を入手して、一気に読み終えたりしながら新年度のドタバタを乗り切ったりしていた。

 

しかしてこの『鑑識レコード倶楽部』、なかなかの曲者、と言うか一筋縄でいかない本過ぎて、まず強烈である。端的に言って、世間一般でのこの本に関する情報、つまり帯推薦文に於けるピーター・バラカン直枝政広といった人選、レコード好きが集ってただ聞くだけのストーリー、といったような説明などから受ける、音楽好きを狙った感じの本ね、という印象とはだいぶ遠い本である。

 

読んでみると、上記の音楽好きが読んだら楽しいんじゃないかな、っていう印象は裏切られ、全然悪い意味ではないけど楽しくない、のである。なぜその楽しくないのが悪い意味ではないのかと言うと、辛いわけではなく、むしろその楽しくないのが面白い、のである。伝わるかな・・・。

 

狂気を感じるほどに淡々と、というか「淡々と」どころでもなく冷酷なまでに一本調子で本のページが進んでいく様にはなんか「不条理」と言う言葉が相応しいくらいだな、と思い当たり、なんかこの読み手が置いて行かれて話が進行しているのにどこにもたどり着かない感じ、カフカっぽいな、とか思いながら読んでたらあとがきにカフカへの言及があって、あーやっぱりな、となった次第で、そういう面白さ、である。

 

確かに記号として曲名やら何やらは当然頻発するのだけれど、これが例えば花の名前でも戦国武将の名前でも、何でも置き換え可能なくらいのウェイト具合で、たまたまレコード好きな人の話だった、という程度で逆に笑っちゃうくらい痛快である。だから古今東西の名著、たとえば『ハイ・フィデリティ』

とか『レコードは死なず』

(これはノンフィクションか)とか、そういう読み手がカタルシスを感じるくらい、レコード抜きには語れない物語の本を読み終えた時の感覚は全くないので、そういうのを求める向きにはお薦めできないように思うけど、面白い読書体験ができる、そしてついでにレコードについてでもある、というところがストンとくる人には物凄く大推薦だったりする。

 

あらゆるところが腑に落ちないまま進行し、結局最後も腑に落ちないし、様々な世の中の事柄の何らかのメタファーの連続であると考えないとこちらが正気を保てないような話ではあるが、私、この作家さんの他の作品当然読んだことなかったのだけれども、めちゃくちゃ好みすぎて他の作品も読んでみることを決心した。あとがきにも"deadpan humor"という言葉が出て来たけれどもまさにそこが非常に魅力なのだな、と一気に読み終えて虚空を見つめて呆然としながら、なんとか自分の中で色々とこの本に関して落とし所を発見しようとしながら思った次第である。

 

流石にUKが舞台だと、アーティスト名は全く出てこないけれどもRed Lorry Yellow LorryとかIt's ImmaterialとかTeenage FanclubとかThe Only OnesとかMekonsとかSparksとかの曲名が、所謂古典的な名曲の曲名に混ざって出てくるので、そこらへんはまあレコード扱ってくれててありがとう、という悦びはあったな、確かに。

 

でも、レコード好きとして悦びを覚えるポイントは、全然悪い意味ではなく、そこだけ、なのである。ただ、何度も言うけどそこがこの本の凄いところ、面白いところなので、是非ご一読をお勧め。

 

まだなんかもやもやというか、何だったんだ・・・、という読後の思いに囚われているのだがEve Adamsの「Metal Bird」を聴く。

Metal Bird

Metal Bird

Amazon

以前は違う名義でも活動していたらしい彼女の3枚目となるアルバム(らしい)だが、去年出ていたものの再リリース、らしい。「らしい」ばかりで申し訳ないのだが私は昨年のリリースの時から気になっていたのだけれども入手できず、今回の再リリースでやっと聴くことができた。そして、これがまた傑作で震える。Crack Cloudのメンバーのプロデュースによる、基本的には彼女の自然な歌声をいかしたフォーク然とした曲に往年のジャズ風情のストリングスやブラスやドラムなどが華を添える、とても良い感じの(歌詞も含めて)牧歌的な感じのアルバムなのだけれども、どこか音の響きが言ってみれば不吉な感じで、そう、最初聴いてなんら情報を得る前から思ってたのだけれども、インタヴューで彼女が言及していたThe Caretaker

Empty Bliss Beyond This World

Empty Bliss Beyond This World

Amazon

みたいな、当時のレコードから歪んだ感じでサンプリングされまくったねじれたオールドタイミーさとか、バックに鳴るふわーっとしたシンセの音からEnoっぽさとか、David Lynchっぽさ(本人の音楽じゃなくて映画の方の感触)とか、そういうものがあってですね、凄く聴きやすいのだけれども、何だか溺れたら危ないんじゃないか、という甘さに満ちた音楽、である。溶けたMazzy Starみたいに感じられる瞬間もあって、こういう音楽はCindy Lee

Model Express [Analog]

Model Express [Analog]

Amazon

聴いた時にも思ったけれども(こんなに極端じゃないかもしれないけれど)、どうにも私は惹かれてしまうのであった。嬉しい大発見音楽。