Longest Days

そういえば、7月初旬から私は歯医者に痛飲、否、通院していたわけであるが、先日やっと銀歯が入り、まだ無罪放免とはなっていないもののある程度一定の決着を見たのであった。

単に詰め物が取れたからそこを治してもらえば良いや、という軽い気持ちで通い始めたものの、最終的には神経抜かれるわ、歯の5分の4くらい削られるわ、という大変なことになってしまい、その歯の廃墟の上に金属の土台を嵌めたら嵌めたで時間が取れなくなってなかなか行けず、その仮の歯のまま3週間過ごすことになったり、と様々な出来事の記憶が走馬灯のように去来するのであるが、まだ無罪放免とはなっていないので喜ぶのはまだ早い、ということである。

まあ、そんな私にしかわからない記憶の話なぞはどうでも良い。先日その銀歯を嵌めに歯医者に赴いたのは11時過ぎくらいであった。銀歯を嵌める前にいつものように綺麗な歯科助手のお姉さんが歯の掃除やら歯茎のマッサージやらをしてくれるのだが、こないだお姉さんがマッサージしている間、彼女の腹の虫が昼前ということもあってぐうぐう暴れっぱなしで何とも気まずかった。

別にそれは人間にとってごくごく普通のことだから良いのだが、それに関して何らツッコミも出来ず(第一そういう関係性でもないし、こちとら口開いているから言葉を発せない、という物理的な要因もあるし)、あちらさんも照れ笑いをする、とかあら、とか言うまでもなく淡々としているわけで、何だかこう、気まずい、というか俺はどうしたら良いのか、と口を開けながら軽くパニック状態に陥った次第である。

しかし、段々、彼女の腹の虫がぐうぐう暴れん坊の様相をより一層強めて来た段になると、何だか彼女と秘密を共有しているような気持ちになってきた。私と彼女しか知らない彼女の腹の虫の音(ね)。おお、何だかこう、秘め事のような、そういう淫靡な香りがしてくるではないか・・・。

と真昼間から妄想したりした次第である。って本当に阿呆だのう・・・。John Mellencampの「Life Death Love And Freedom」を聴く。Hear Musicからリリースされた新作である。これまたT Bone Burnettプロデュース、ってので思い切り食指が動いたのだが、思えば彼の作品を聴くのは87年の「The Lonesome Jubilee」The Lonesome Jubilee以来、というけしからん私である。確かその後病気になったりして、一時期引退していたような記憶もあるが、いかんせん90年代初頭のリリースくらいまでしか記憶がない。そんなけしからん私であるが、この新作は渋い。CV、である。実にシンプルな楽器編成で(時に鍵盤が入る程度)どっしりとブルージーな、時にカントリーっぽいそんなアメリカンロックのエッセンスだけを抽出したかのような、そういうアルバムである。長く彼の活動を追いかけてきた人にとってはどうなのか全くわからないのだが、私の聴いていた20年以上前のロックンロール魂溢れるアルバム群とは大分趣が違う。それは至極当然のことだろうし、それを追い求めるつもりも毛頭ない。何だかJohnny CashのAmerican Recordingsシリーズに近い風情まで漂っていて、傑作、である。アルバムタイトル通りの歌詞の内容も何だかこのどっしりといぶし銀の光を放つサウンドにマッチしていて、んー深い。そんな中ジャングルビートっぽいビートをフィーチャーした女性ヴォーカルとのデュエットナンバーなぞ飛び出してくると、それだけでずがーんとやられてしまう私であった。でも本当にこのアルバムの聴き所はJohn Mellencamp自身のより深みを増した声、なのであった。こんなに良い声だったんだ・・・、と思わず身を乗り出してしまうほどの低い、若干かすれ気味の声で時に熱っぽく、時に淡々と歌われた日には、ねえ・・・。