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(今回はいつもの前半と後半を混ぜた形でお送りいたします。)

「Factory Records Communications 1978-92」というボックスセットを聴いている。

これはタイトル通り、マンチェスターに存在したインディレーベルの歴史をがっと振り返ってまとめたボックスセットである。ここ数年、このレーベルの栄枯盛衰を描いた「24 Hour Party People」という本やら映画、看板バンドJoy Division関係の映画があったりしたのでかなり注目も再び集まっていることだろうと思うので、これはナイスなタイミングかと思われる。

とか冷静に書いているが、このレーベルの音源に関してはあっつく中古盤を掘った日々があるので実に嬉しい。どちらかと言うと兄弟レーベル的なベルギーのCrepsculeレーベルとかFactory Benelux関連作に賭けた熱量の方が凄かったりもするのだが勿論本家本元もあっつく聴いていたものである。ということで熱狂しながら聴き倒してしまったのだが、初期のモロ「パンク後です」的バンドの数々から、打ち込み〜ファンク〜ダンスミュージック〜ジャジーという方向性のバンドが勢いを増してきて90年代初頭のアシッドハウス、所謂マンチェ、という展開に纏められているのは実に上手である。という風に纏めただけでは勿論フォローできない曲群も勿論多数入っているのだけれどもこのコンピの方向性は概ね上記のような感じなのだろうと思う。

どのディスクを聴いてもJoy DivisionNew Order関連の音源が必ず入っている、ということからも明らかなのであるが、まあFactoryは彼等と共にあったレーベルであるのは間違いない。しかしその時代その時代、彼等以外にも出たり入ったりしたグループが当然ながらいたわけで、そこら辺に注目して聴くと実に地味渋ながらも良いバンドが在籍したレーベルだった、という側面も浮かび上がるので様々に楽しめる箱物であることに間違いはない。

とか冷静に書いているのだが、私はこの箱を店頭で発見してうおおお(なんせこのパッケージですし)、となり即購入した。しかし思えば実は91年にもFactoryレーベルのアンソロジーCD4枚組「Palatine」Palatine: The Factory Story/1979-1990というものが出ていて、当然ながら所有しているのだった、私は。まあ内容は勿論異なるのであるが、被る曲もかなり多数である。それ以上に普通にアルバムとか12インチとかで持っている曲が大体90%くらいであろうか、それくらいはあるわけで、またやってしまった・・・、とCD店からの帰り道軽く項垂れたりもした。悪い病気が、ってね。そもそも、ふと気づけば物心ついたあたりから毎年毎年何らかの形でJoy DivisionとかNew Orderが入っている音源を購入しているわけでもう良いだろ良い加減、とか、半ば逆ギレに近い状態に陥ったのだった。

しかし落ち着いて家で前述の「Palatine」を眺めながら今回のボックスを聴いていて、物凄く大事なことに気がついた。「Palatine」はまだファクトリーレーベルが存命時に出されたアンソロジーで、且つ各ディスク毎にテーマを決めてコンパイルされたものであった(まあ、当然ながらこちらでも各ディスクにJoy DivisionNew Order関連は必ず入っているのだが)。まあ、レーベル自体がディストリビューションをメジャーに任せる方針を打ち出した頃に出されたものでその後結局レーベルは畳んでしまうのであるけれども「今後も動きます」的な面持ちで一区切り、みたいなそういう意味合いを持ったアンソロジーだったのだろうと思う。

しかし今回の「Communications」の方は完全に終わったレーベルの音源を時系列に並べたものであって、実に冷静なアンソロジーなのである。だからこそ今回のボックスセットは研究、というか全貌を(勿論抜け落ちている曲もあるからどだい無理なのであるが)掴むのに適しているわけで、嗚呼買う意義があったじゃないか自分、とホッとしたりした。勿論、そういうのは自分の中だけでの慰めにしかならないわけであるが、まあ良いではないか。私は納得したんだから(って半ばこれも逆ギレみたいなもんだ)。

しかしそうか、名物プロデューサーMartin Hannettも、New OrderのマネージャーでFactory運営に深く関わったRob Grettonも、そしてオーナーのTony Wilsonももうこの世にはいないのだなあ、という事実に気づき何だか切ない気分になった。音楽は残るのだけれども、それを作り出したり送り出したりした人々は1人、また1人と去っていってしまうのだなあ。

とか感傷的に纏めたくなったのだが、ここでぶち壊す。今回のボックスセットにCrawling Chaosの「Sex Machine」という曲が入っている。別にJBのカヴァーではない(The Flying Lizardsは良い感じにカヴァーしていたが)。このバンド自体はアルバム1枚、この「Sex Machine」のシングル1枚でFactoryとの関係は切れたバンドである。アルバムThe Gas Chairは私は持っていたのであるがこのシングルは未収録で持っていない(現在のCD再発エディションにはボートラで入ってるみたいであるが)。で、ぼんやり今回のボックスのディスク1を聴いていたらやられた。この曲がなんだか物凄い強烈にヒドイのだけれども格好良いのだ!!悪食のようなものである、いわば。久々に興奮してこの曲ばかり死ぬほど朝っぱらからリピートしてしまった次第である。何かDAF骨粗しょう症になってギター入れて全体的に下品になったような感じなのだけれども、最高すぎる。歌詞も本当にヒドイが最高すぎる。うおおこの7インチが欲しい、と突如レコ欲が復活して、何だろう、回春?というように大混乱を来たすくらい私の心をかき乱してくれたわけで、まあそういう経験ができただけでも今回のボックスセット、やっぱり買う意味があったんだな・・・。