Holiday

世の中便利な言葉というものは結構たくさんあると思う。

しかし「便利な言葉」という言葉自体、あまり良い文脈で見たり聞いたりすることはないと思う。まあ、それは一旦置いておいて、最近よく目にする便利な言葉に「こんな時代だから」というものがある。

別に最近の話でもないのかも知れないが、良く見聞きする言葉である、「こんな時代だから」。機嫌が良い時だったら、そうだねー、とスルーしてしまいがちなのだが、いかんせんどうも最近虫の居所が悪いことが多いので、こういうところでつっかかってしまうのである、一体どういう時代なんだよ、と。

考えてみれば「時代」というものの捉え方ってのはたぶん人それぞれ違うものであろう。その人がどういう情報を持っていて、どういう性格をしていて、どういう暮らしをしているか、とか様々な要因によって大きく違うと思う。でもなんとなーく、「こんな時代だから」と言われるとそれに続く言葉が何だか説得力あるんじゃないかなー、という気にさせられたりするから不思議だ。

これは便利だ。色々使えるのではないか。よく広告で目にするのもそういうことだったのかなるほど。なんとなくこの言葉の後に良い感じの言葉をつなげれば広告のコピーの1つや2つ完成しそうな勢いであろう。勿論、そのつながる言葉のイメージが明確であればあるほど、「こんな時代だから」というのはこの文脈ではどういう時代のことを指しているのかはっきりするものであるが、最近それも明確にならぬままに使われている言葉のような気がしてならない。

だからこのまま行くと「こんな時代だから」というのは、「こんな時代だから戦争しよう」、「こんな時代だから心中しよう」、「こんな時代だから頼むからセックスさせてくれ!」とか色々むちゃくちゃに使われかねない。だから、今のうちに「こんな時代だから」という言葉には注意しておく必要がある。もしここで「こんな時代だから」に対して変に慣れてしまうと、上記のように悪用された場合、あそうだよなー、って納得して実際行動してしまうかも知れないではないか!

と新聞広告の一行読んだだけでどーたらこーたら言えてしまう私は確実に今、ちょっとおかしいのではないかと思う。でもそれがこの当「日々散歩」の真髄でもあるわけで、まあしょうがないか、と大目に見てほしい。

ということでこんな時代だからMadonnaの「Celebration」なるベストアルバムを聴く。ちなみに1枚ものと2枚組、さらにはDVD2枚付きの2枚組、なんてリリースされているようだが、DVDはさておき、1枚ものではまったく意味がないと思うのだが・・・。これはMadonnaのデビュー盤から新曲までのキャリアをシングルばかり(聴きたかった「American Pie」とか「True Blue」とか「Angel」とか「Rain」とか入ってなかったりするけれども)でずざーとフォローしたコンピなのである。私はMadonnaに関して、デビュー当時から知っていたりラジオで聴いたりなんだりしていたものの、決して良いリスナーではなかった。しかしこのベスト盤を聴いて、知らない曲がほとんどない、という状態に驚愕した。いつの間にか聴いていて、覚えていて、という楽曲が約98%、である。これは凄い。やはり稀代のポップスターというのは半端ないのである。当然ながらどの曲も凝っていて、良く作られていて、通して聴くとお腹一杯すぎるくらいになってしまうわけなのであるが、Madonnaの声って実に不思議だ。明らかに生身の人間の声なのに、デビュー当時から「Like A Virgin」までの数曲を除くと何だか人間の歌っているようには聴こえないのである。これは加工処理云々の問題もあるのだろうけれども、それにしても何だか我々通常の人間とは1枚壁を隔てたところで発せられている声に聴こえて仕方がない。これは別にMadonnaにまつわるエトセトラを踏まえての感想ではなく、音楽を聴いて、の感想である。だからまるで完璧なヒット曲を生み出す女声サイボーグが吹き込んだ名曲の数々を拝聴しているような気分になってくるのであった。しかしこれは決して悪いことではなく、ヒットチャートのど真ん中にこういう何だか凄いモノがいる、という歴史のドキュメントなわけだから悪いわけないのだ。シングル中心ということでダンサブルなナンバーが大半を占めるが85,6年の「Crazy For You」とか「Live To Tell」とかの映画絡みのバラード曲が音の感触の時代性を超えて物凄い泣ける勢いの説得力を持っているのには度肝を抜かれた。凄すぎる。そして「Hung Up」、「Into The Groove」あたりの激キラーチューンがヤバイのは当然ながら、エロ過ぎて引かれ気味だった時代の、そして私が当時シューゲイザーずっぱまりだったが故に本当に真面目に聴いていなかった「Justify My Love」、「Erotica」という2大エロシングルが彼女の声とバックトラックの絡みとか今聴いてもめっちゃくちゃクールで、且つドープとか臆面もなく言っても構わないぐらいのかっこよさでのけぞった。この2曲の素晴らしさを確かめるためだけでもこの2枚組ベストは聴く価値があるはずである。ってまあ私が別にここでああだこうだ言うまでもないことなんだろうけれども。しかし初期の可愛らしさはなんだかサイボーグ以前、的佇まいで非常に愛らしいのだが、Madonnaって美しいのだけれども、なんだか女性、というか「好み」とかそういう対象で見ることが難しいんだな。それはデビュー当時からそうであって、それがもしかしてスターのスターたる由縁なのだろうか。むー。まあ、それも置いておいてとにかく聴け、踊れ、と言わんばかりのフルヴォリュームの2枚組には完全降伏、なのであった。