1 Samuel 15:23

映画「パイレーツ・ロック」を見てきた。

ご存知の方も多いかとは思うのだが、これは実在した海賊ラジオ局をモチーフにしたイギリス映画である。ストーリーは、とか書くのがいつもの常なのだがここをお読みの方には全員見ていただきたい映画なのであえてストーリーに触れない。

そう、素晴らしい映画であった。否、素晴らしい時間を過ごせた。映画としてはめっちゃくちゃ厚みがないかも知れないし、なんら解決してないじゃないか、とか思えるフシもあるのだけれども、そんなことは全然、本当に全然関係ない!そういうことよりも、そのシーン、そのセリフ、どれもどれもが瞬間的にズキューンと心を打つ、まさにロックンロール的(!)な映画だと思った。

例えば全然違うシチュエーションでこの映画の中のセリフを目にしたり耳にしたり、全然違う映画の内容でこれくらいのストーリーとかだったら全然駄目だと思う。要はこの映画ならでは、の魅力が溢れまくった映画だったのだ。それらを全て説得力あるものにしてしまっているんだからこの映画は凄い、と思うのだ。

というか、単に思い入れがあったり、私の捻じ曲がった思考のせいでこんなにもびんびんにこの映画に反応してしまったのかも知れないが、少なくとも5回くらいは号泣してしまった。ハンカチを使ってしまうくらい号泣してしまった。なんでかはわからないのだけれども、かなりやられてしまったのだろう。終わってからパンフでも買おうか、と珍しく思ったくらいだった。

しかし、買わなかった。何か自分の知り合いじゃない人がああだこうだ言っている文章が載っているものを読みたい気持ちにはなれなかったのだ。これはもう、私がいたく感動した、それだけで良いんじゃないか、とか自分で思ったのだった。だから逆に見た友人とは是非語り合いたい気分でいっぱいなのだ、直接。だから皆に見ていただいてパイレーツロック飲み会開催、でも良い。荒れそうだし泣きそうだが・・・。

とかまあ、思い入れ全開で申し訳ありません。しかし思い入れついでに、海に沈みそうなのにレコード箱を手放さないDJのシーンで笑っていた後ろの席の連中とは一生友達になれなさそうな、そういう気持ちがしているのだった。あれは己に投影したらば絶対泣くシーンだろう、と思うのだが。まあ私はどちらかというとレコードに没していきそうな、そういう恐ろしさもあったりするのだが・・・。

と最近何だか疲れているのか色々極端な方向に走りがちな私であるが、The Mountain Goatsの「The Life Of The World To Come」を聴く。すっかり4ADにも定着したアメリカ出身の彼らの新作である。快調なペースであるが、音を聴けばまさに快調、ということがひしひしと伝わってくる傑作である。物凄くシンプルで何ら奇を衒ったところもなく、まっすぐに歌と演奏を聴かせてくれるわけだが弾き語り調のナンバーからしっかりとしたバンドサウンドまでこれでもか、と一聴すると淡々としているのだけれども、そのくせよく練られたメロディが畳み掛けてくる。同じく4ADにすっかり定着したM. WardHold Timeもそうだけれども、なんかじわりじわりと後から効いてくる曲ばかりなのである。またJohnのヴォーカルが高いのか低いのか、ちょうど中間くらいを行き来する声質でそれがまた時にどっしり、時に疾走、と緩急のよくつくバックと相俟って絶妙な味わいを見せている。何の変哲もないシンプルなフォーク交じりのロックだし、特に話題性に富んでいるわけでもないのだけれども、常に傍に置いておきたい、というか傍にないと困る、そういう必需品のような音楽なのであった。ちなみに曲名が全部聖書絡みなのだが、そういうコンセプトアルバムなんだろうか。