Alice Springs

本当は文章もロクに読めないくせして、ネット上では偉そうにしている奴についての無茶苦茶なエントリ書こうと思ったんだけど、そういう下らない人間に割いている時間なんて罰あたりなくらい無駄だな、と思ったので止めた。

さて、最近落合恵の『レコード買いに』レコード買いにという本を読んでいる。タイトルからして秀逸であるが、内容もまた負けず劣らず、筆者が『愛した「ネオアコ」をイラストレーション、エッセイ、レコードレビューと、様々な角度から描いた作品集』(帯の文章より)なのである。

なんかこの帯文にはちょっと身構えてしまうのだけれども、実際に中を見てみるとイラストレイターである筆者のイラスト、パッチワークによるコラージュ的作品と、80年代〜90年代初頭のレコードに関して筆者の思い出とかを交えたエッセイ、レヴューといった感じで実に、何というか微笑ましい(というと失礼に当たるのだろうか・・・)感じでサクサクページをめくることができる。

別にディスクガイド的な鬼のように資料性が高い本ではないし、別にAztec Camera辺りからThe Stone Rosesとかに至るUK音楽の変遷をたどる、とかそういうものでもなく、あくまで筆者の好きなレコードとそれにまつわる思い出が書かれているのである。だから、上記のようなものを期待する向きには物足りないのも良いとこなのだろうけれども、筆者がそのレコードの周囲の空気も掬いあげたような文章を書いているので、何だか筆者のそのレコードに対する思いにこちら側も素直に思いを馳せることができて、まるでそのレコードを聴いているような、そういう気分になるのであった。

まあ実際紹介されているレコード、大体聴いたことあるからそうなるのかも知れないけれども、何かそういう楽しい時間を過ごせる1冊である。こういう本が2008年に出ていたとは知らなかった自分のショボさには泣けてくるのだけれども、何となく90年代っぽいこの本がゼロ年代に出ている、という事実だけで、自分も含めたある世代に刷り込まれた文化(上手く言葉にできないのがもどかしいのだけれども)というのは意外に良い意味でしぶといもので、そしてこれからもしぶとくあってもらいたいものだなあ、と心から思うのだった。

ところで私は雑誌の『オリーヴ』とか読んだことない(あ、「オリーヴボーイ特集」だけは読んだな)し、当時は別に意識してそういう文化にどっぷりだったわけではなく、寧ろ逆の方向に進みたいとか思っていたくらいだったのだが、知らず知らずのうちに当時刷り込まれたものが、ノスタルジーも交えて(こいつが絡むとややこしい)形を変えて私の中で爆発したような気分になってしまったものである。だからこの間のカジヒデキのライヴは楽しめたし、ズボンの裾は最近短めだし、肌は弱いし(関係ないように思えるかも知れないが「オリーヴボーイ」の条件でこれがあった)、ここに来てこの『レコード買いに』だし、もうこうなったらボーダーにベレー帽にカプチーノに(あくまで記号だけで攻めると)か!とかなるのだが、ちょうどこの『レコード買いに』のページをめくってたまらん気持ちになっている時に聴いていたのが、Prurientを筆頭とする現代ノイズの総本山Hospital Productionsの、本当に全曲出会い頭にぶん殴ってくるような怒涛の荒れ狂うパワーノイズしか入っていない、大層けしからんアートワークに彩られたコンピレーションだったりするものだから、我がEVOLの相棒の気持ちが痛いくらいにわかってしまった夜。Tweeへの道は遠い、ってことか結局・・・。

で、気を取り直してMystery Jetsの「Serotonin」を聴く。Rough Tradeに移籍しての作品であるが、これが、最高すぎる!!!!!!私は前作Twenty Oneからファンになった超後進ファンなのであるが、このアルバムに収められた、からっとしながら小技効きまくって、決して素直なメロディだけじゃないのに結果として超ポップに甘酸っぱくまとまった楽曲群に抗える人って凄いと思う。何か前時代的なシンセの音色も嫌味じゃないし、ボトムがしっかりした音作りなのに物凄く軽やかである。基本は綺麗なメロディのギターバンドなのに、何かアルバムだと綺麗になり過ぎちゃって・・・、という80年代UKによくいたようなバンドが、奇跡的に上手いことプロデュースされた綺麗さとバンドの生々しさを融合させて作り上げた作品、という印象を受けたりするが褒め言葉に聞こえるだろうか・・・。そう、このアルバムの良いところはそういう軽やかで綺麗な作品なのに、しっかりバンドとしてのエッジとかスケールの大きさが自然な形で出ているところなのである。良いバンドだなー、本当に。と感動しまくりでクレジット見たらプロデュースがChris Thomasだった。それもまた何だか凄いなあ・・・。少なくとも6曲は胸掻き毟って死ぬ音になっているので要注意。