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AOBA NU NOISEのTシャツです!

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最近のニュースとかを見ていると大変に気が滅入ることばかり、で世の中本当にどうなってるんだ、とか思うのだが、これは今に限らず昔からそうだったのかも知れない。種類や性質は違えど、昔からそういうじくじくとした痛みをこちらに与えてくるような出来事、というものがフィーチャーされる、ということなのだろう。

 

これは、悲劇よりも喜劇を理解する方が難しい、ということと同じで嫌なこと、辛いこと、悲しいことはあらかた万人にとって共通してそういうものであって、逆に喜ばしいこと、というのは個人差があるし好みもあるし、そういうことはグローバルなものではないのである、という風に理解すると、なんだかきっついニュースばかりで滅入る心も穏やかになる、というものである。

 

そのうえで、じゃあどうやって、というとこれは自分で探していくしかないので、それはリアルでもネットでも、身の回りから色々探し出して、その上できっついニュースが溢れる世の中に対峙していかないといかんのである。自ら動かないと心の平穏が得られない、というのもなかなかなことであるが、そうするしかないのであろう。

 

そのバランスはなかなか難しい。平穏にばかり耽溺してしまうとそれはそれで世の中のことが見えなくなってしまうであろうし、その逆は逆でしんどい思いしか残らない。しかしまあ、どこにふと心の平穏的なものをもたらすものが転がっているかはわからないもので、YouTubeなんかに勧められる動画に猛烈に、吸い込まれるように釘付けになってしまって何本か見た後、得も言われぬ心持になった経験が、私の場合記憶に新しい。

 

それは、昔は良かった、ということとはまた別のベクトルで昔の仙台の風景であるとか、昔の宮城ローカルのCMだのを急に、唐突に、YouTubeがおすすめしてきたことに由来する。日頃はなんかヴァイオレントな映画の銃撃シーンだの自動車の事故映像だのアメリカの警官のボディカムの映像だのを勧めてくる、私の荒んだYouTubeトップ画面が昭和63年の4月の仙台の街並みの風景とかを勧めてくるわけだから、世の中何があるかわからないものである。

 

見てみると、確かに昔私が何の意識もせずに見ていた光景があって、ああ確かに今は全然違う建物だらけだな、とか、あれ、これ何だっけ、とかなってあっという間に時間が過ぎていった。ある意味ノスタルジーともいえるものだろうけれども、とくにそこら辺の建物に思い入れがあるとか、そこで何かした、という記憶があるわけでもなく、単純に自分も知っている昔の風景を見たら、なんだかちょっと心が穏やかになった、のである。

 

別にその時代の自分のことを思い出したわけでもない。強いてこの拙ブログのネタとして思い出してみれば、昭和63年の4月だったら私はまだ13歳、FeltとPeter MurphyとOrchestral Manoeuvres In The DarkとWireとBlackに夢中だった可愛い少年だった、という程度である。だからまああんまり中身変わってないのだけれども、その時代楽しかったか、と言えばそんなにそういう記憶があるわけでもないので、昔は良かった、というのとはまた違う、のである。

 

そういえば廃墟の写真とかを見た時も不思議とこういう気持ちになったことを思い出す。要は私の場合、なんか「失われたもの」が心に平穏をもたらす、というかなんとも言えない心地よさをもたらしてくれる、のかもしれない。自分が失ったものではなく、世の中から「失われたもの」、それを愛でながら私は世の中と対峙していくのであろうか。

 

Beth Gibbonsの「Lives Outgrown」を聴く。

Portisheadの「声」である彼女のソロアルバム、である。彼女の名を冠したアルバムは既に2作あってRustin Manとの共同名義の

とGorecki楽曲をオーケストラとやっている

Henryk Gorecki:..

Henryk Gorecki:..

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がありますな。ただ今作は完全ソロ名義なので初、なのかも知れない。プロデュースにはSimian Mobile Discoの、というかDepeche Modeとかのプロデューサーとして大活躍のJames Fordを迎え、またRustin Manとの共作から引き続き、Talk TalkのLee Harrisがドラムで参加している。いうかRustin ManはTalk Talkのベース、Paul WebbなのでつまりはTalk Talkのリズム隊と彼女はアルバムを作ってきた、ということである。このリズム隊2人の90年代半ばのユニットO'RangのヴォーカリストのオーディションにBeth Gibbonsが来たこともあったようでそういうつながりのようである。さて、今作であるがBethさんの震える哀しみを湛えた声は変わらず健在で、確かにPortisheadとしてのデビューから30年くらい経っているけれども、大きく印象が変わらないのは初手から老いたようでもあり若いようでもある声、だったからであろうか。そして音はRustin Manとのアルバムを聴いていれば容易に想像できるとおり、アクースティックギターやらストリングスやら管楽器がフィーチャーされてトラッドフォークっぽくもあり、アレンジのせいもあって中東風でもあったり、と同時に謎な音があちこちに散りばめられていたりして、どこの国でもない民族音楽のような、そんな雰囲気まで醸し出されている。そうそう、ドラムがひたすらタムとかバスドラムの音ばかりでスネアが響いてこないところも、そういう空気に貢献している。歌詞も不安やら「失われたもの」がテーマのようであって、全体的にトーンは重い。しかし意外に空間的な広がりがあって、息苦しい重苦しさではない。そして曲がダークなポップソングとして一級品の粒ぞろいなので、まったく「Portisheadの」ということを聴いている間は思い出さなかったし、そういう言葉も必要もないような、堂々とした傑作。