Beyond Here Lies Nothin'

忌野清志郎が亡くなってしまって、私は彼の音楽に関しては熱心な聴き手では全くなかったし、これからもそうではないのだろうけれども、ガン→復活→転移、そして、という流れは今の私にとっては、凄く、凄く辛い。何と言うかガンになったら二度と治らないのだ、ということを目の前に突きつけられてしまったような感じがする。勿論彼の冥福を祈るのだが、それだけでは済まされない何だか辛い気持ちなんだ。

でも、それとは関係なく昨日は粉ものしか食べていなかった。それはコカインしか吸っていなかった、ということでは断じてなく、ベーグルを朝食に食べ、うどんを昼食に食べ、夜はたこ焼きを食べ、という実に粉っぽい1日だったのだ。

しかしたこ焼きである。我が家では導入以来一度しかたこ焼き器を使って作ってなかったのであるが、一度目はトラウマ必至の事態になってしまい、二度とたこ焼きなんざ作らねえ、と言い切りたくなるくらい大変だったのだった。球状のところからはみ出たところはこびり付いて取れないわ、丸くなってひっくり返そうとしてもひっくり返らなくて何だか半端な形になってしかも中身もぐにゃあとしてるわ、という大変なことになってしまい「たこ焼き=大変な食いモン」というイメージがついてしまったのだった。と同時にたこ焼き屋の職人に対するリスペクトも必然的に高まったものだったが。

しかし今回はリヴェンジ的な勢いでもって取り組んだのだった。一巡目こそ周りが一気に焦げてひっくり返すのが大変だったり、ひっくり返そうにも全然形が固まらずに単なるぐにょぐにょのたこ入り粉の塊、みたいになったりしたものができたりして、やっぱりたこ焼きなんざ家でやるもんじゃねえ、と不慣れな東北人グルーヴを炸裂させてしまいそうになったものだったが、二巡目はどれもすっきり軽くまるっと出来上がり、しかも意外に上品な焦げ目で実に美味しくいただけたのだった。というか寧ろ感動モノの美味しさで、こ、これがたこ焼きか、と何故か泣きそうになったりした。素朴な話である。

ということでたこ焼きは辛いだけじゃなくて悦びも与えてくれるものである。渡辺美里は「Moonlight Dance」で悲しいだけが恋じゃない、とか何とか歌っていたような記憶があるが(面倒だから確認してないのだが)、それに近い気持ちを今私はたこ焼きに対して抱いているのだった。素朴な話であるが。

連休と言えどもとくに大それたことをしないだろうしする予定もない私としては、こういう小さいところに大きな感動を見つけていくしかないのである。Bob Dylanの「Together Through Life」も感動を与えてくれるものであるが。何だか結構速いペースで届いた新作なのである。ここ最近の作品の延長線上にあると言えばあるのだけれども、どうにもこうにもノリは違うと言えば違うのである。何だかユルい。ユルい作品である。前作も前々作も結構エッジが立った瞬間はあるものだが、今作にはそれはない。しかしそれが悪いかと言えば全然悪くないのである。多分Los LobosのDavid Hidalgoの弾くアコーディオンが全編で大フィーチャーされているのが大きな要因なのかも知れないのだが、カントリー〜ブルーズ、ちょっと中南米ノリ?のどこにもとんがった音が見当たらないアルバムなのである。丸っこい音だけで構成されたアルバムなのである。ということで非常にゆったりと聴けるし、淡々と聴けるのだが、なんかドロっとしたものが染み出してくるような、そういうところはここ最近の作品と同様で何だか良い意味で緊張を強いられたりするのだった、何かあるんじゃないか、という思いと共に。でも難しいこと抜きに聴いても十分に楽しめるし、「Love And Theft」以降では一番愛聴しそうな作品だったりする、この淡々とした感じがクセになりそうで。しかし「ウチのカミさんのふるさとは地獄」ってさあ、やってくれるね、うん。しかも曲はWillie Dixonの「I Just Want To Make Love To You」だし。そういう部分があるからなかなか気楽には聴かせてくれないのだけれども。