Summer Never Ends

音楽は聴く側の調子いかんによって良くも、悪くも聴こえる、ということを認識したのはあれは、風邪で寝込んでいた高校1年生の冬だったであろうか。

当時買ったばかりだったJesus Jonesの「Doubt」Doubtを風邪で寝込みながら聴いていたのだが、もう押せ押せ過ぎて物凄くうるさく聴こえたのだった。まあ、そもそもなんでこのアルバム買ったのか、というとあまりにも音楽雑誌で褒められ過ぎていたため、何か聴かなきゃダメなんじゃね、という感じになってしまったからなのだった。結局あまりJJは好きになれず、どっちかと言うとEMFの方が大好きだったなあ。

話が逸れた。ということでJJを聴くのをあきらめUB40のベスト盤Best of Ub40 1ばかりずっと聴いていた。だからこのベスト盤を聴くといまだに何だか胃の痛みと熱に苛まれたあの風邪っぴきの時期を思い出す。同様の経験は卒業論文を買いている真っ最中に高熱を出して寝込んだ大学4年の冬も思い出す。当時付き合っていた女からの電話にも出ず(メールとかない時代だったからのう)うんうん寝込んでいたが、Atari Teenage RiotのファーストDelete Yourselfは地獄の響きにしか聴こえず、ずーっとDavid Toop編集の「Ocean Of Sound」Ocean of Soundばっかり聴いていたものだった。時にごっつい展開が訪れたりもしたのだが、何故かすーっと入ってきたのだった。

で何を言いたいのか、というと最近こんなに暑いのでThe Pale Fountainsばかり聴いている日々が続いていたのだが、冷たいものばっかり飲んでるとお腹を壊すのと同様、別にPF自体は全然悪くないのだが、そろそろ違うのを聴かなければ、となりHermann NitschとかCharlemagne PalestineとかLuc Ferrariとかの何も起きない系を連続して聴き、それでもやはり何か違うのを、と、つまり暑い日に辛いカレーを食べてあっつくなる理論でそれらとは真逆のベクトルに進むべく、巻上公一「殺しのブルース」殺しのブルース(紙ジャケット仕様)で変幻自在の氏のヴォーカルとJohn Zornプロデュースの演奏、とくにPainkiller+灰野敬二の激烈な「マリアンヌ」に汗をかき、すぐさまJapanの「Quiet Life」Quiet Life「Tin Drum」Tin Drumと聴いてDavid Sylvianの鼻のつまったような美声とMick Karnのうにょうにょ言うベースにまたしても汗をかき、暑苦しさに止めを刺そうと暑い最中暑苦しさマックスのKate Bushの「Hounds Of Love」The Hounds of Love (+6 Bonus Track)を車で聴きながら出かけたのだが、暑い車中、ふとルームミラーを見れば後ろの車の中で、暑苦しく真っ黒に日焼けして、捩じりタオルを頭に巻いて、本当に暑そうにうちわであおいでいるおっさんおばさんの姿が目に入り一気にこちらも暑さ倍増、これは俺も死ぬ、とKate Bushをイジェクトしてラジオに変えたのだった。

と実験に失敗した私がやけのはらの「This Night Is Still Young」を聴いても全く不思議ではないであろう。反動、って奴である。ラッパーやDJ、そしてyounGSoundsのメンバーとしても活躍中の彼のファーストアルバムである。とくに日本語のラップを愛好して聴いている私ではないが、スチャダラアニを彷彿させるどこかユーモラスな印象を与える氏のラップ、そして全体を包むどこか夏な感じピースな感じ、そしてどことなくクールな90年代の匂いがするビートを携えた、アーバンな(なんか良くわからないが、そういうイメージの)トラック群は嫌いなわけがない。キミドリのカヴァーというのもまたグッと来るわけで。でもこのアルバムを包む感触というのは何となく90年代を通過して一度何だかなー、という世の中になって、でもそこを踏まえた上での刹那な(というか一瞬の夏の)楽しさ切なさを内包しているようで確かに今聴いているからこそしっくり来るのかなあ、とか思ったりするがあんまりめんどくさく考えるのは得意じゃないのでこれくらいにしておく。でも「自己嫌悪」のカヴァーがあって、それでいて全体的に前向きなムードでまとめあげているあたり、そういう感じがしたりするのだけれども。まあ良い。しかししつこいようだが、そのような前向きさに大変に心打たれるアルバムである。勿論この季節以外に聴いても絶対良いだろうけれども、今年の夏、とくに夕方から夜を彩ってくれる作品であるのは間違いない。