Sail Away

今野雄二の『無限の歓喜無限の歓喜 今野雄二音楽評論集 (単行本)という音楽評論集を読んでいる。

昨年彼が亡くなった際にこんがらがりまくった思いはこちらに書いているのだが、そんな彼の『ミュージック・マガジン』誌での原稿とかライナーノーツとかから選んで編まれたのがこの本である。ライナーノーツに関しては、私が持っているレコードやCDで結構彼の原稿は読んでいたのだが、ここに収められているのはLou Reedの「Berlin」のライナーくらいしか読んだことがなかったりして他のは読んでいなかったりするから凄く新鮮である。

1974年(私が生まれた年だ)にデビューアルバムが出たアーティストの中から次のスーパースターを占う、という趣旨のプロローグ的原稿では、「まったく個人的な感性のみを頼りに」Jobriathを一押ししており、その瞬間にちょっとその後のJobriathの展開を考えると難しい気持ちになるのだが、そう、この本は色々この40年近くのポピュラー・ミュージックの動きと照らし合わせながら読む、というよりは多分に今野雄二、という人が上記のように「まったく個人的な感性のみを頼りに」ポピュラー・ミュージックをベースに作り上げた物語を楽しむ、的な読み方が面白いのではないだろうか。そういう読み方だと時系列に並んだ短編集、という感じの捉え方ができなくもない。まあつまりは、ちょっと妄想が炸裂しまくりすぎなんじゃないか、とか思わせられる瞬間もあるような、そういう突っ走り方を時に見せるわけである。でも時間による熟成を経て、最早読み物として面白い、という域にまで達しているのである。

ということで端々から見えるそのアーティストとの個人的な交流とか、その当時の最先端の文化を切り取らんとする氏の姿勢などから「文化人」とかいう言葉が思いだされたりもするのだが、私くらいの世代だとテレビで彼を見たことはないし、文章だって中古盤での出会いが多かった(『ミュージック・マガジン』はあまり読もうという気にならない雑誌だったし、あ、今でもだ)わけで、簡単に「過去の人」と割り切ることができたはずなのだけれども、私にはそれはできなかったのである。それは書かれている内容云々、というよりは彼の文体があまりにも魅力的すぎるからなのである。一言で印象を述べれば、なんかゴージャスで絢爛、ということになろうか。多用されるエクスクラメーション・マーククエスチョン・マークやハイフン、「・・・・・」など、嗚呼なんか優美なんだよな、と全くの個人的な感想になってしまうのだが・・・。だから読み物としての強度を保つことができている、というか。

それでも、1983年のNew Order「Confusion」から受けた衝撃からのターンテーブル2台使ってのブレイク・ミックスやスクラッチやヒップホップ、Arthur BakerやJellybeanとかに関しての原稿や、80年代末期のハウスの勃興をパラダイス・ガラージなどの観点から紹介、とか良い意味での「遊び人」としての文章は「歴史」としてしかそれらを知りえない私に対して、リアルタイムで衝撃を受けて優美な文章で語りかけてくる彼の姿が感じられて、それはそう!まさに彼ー今野雄二が筆者の目の前に座り、矢継ぎ早に当時最先端のレコードを片っ端からかけながらいる姿が目に浮かぶようである・・・・。それは果たして幻か?・・・・いや、その文章の輝きによって彼は現前するのである!

と後半無理やり今野雄二に乗っ取られた風文章になったが、ちょっとこういう感じの音楽評論集なんて他にないだろうと思うし、意外にさらっと読めるから軽く手に取って読むのが良いのだろう。私もさらっとあっという間に読み終えて今二巡目である。それにしても・・・、これらの文章を読んで、それから彼の最期のことを考えると一抹の寂しさが漂うのは致し方ないことなのだろうか。

The Raptureの「In The Grace Of Your Love」を聴く。前作から5年も経っていたのか・・・。メンバーが減ったりレーベルも変わったりして結構激動だったのだろうか。そもそもあの衝撃の「House Of Jealous Lovers」が2002年だったりするので気がつくと随分時間というものは流れるようである。で今作であるが、これが物凄い傑作なのである!元々切っ先鋭いギターと強靭なダンスビートをバンドで、という音だったのだが今作ではまず曲が凄くメロディアスで哀愁を帯びていて印象的だし、ヴォーカルが前面に出ていて、このバンドはこんなにヴォーカルが魅力的だったっけか?と思わざるを得ないほどである。しかもビートはビートで更に強靭でクンビア風の香りまでもしてて、全体的に凄くバンドとしてパワーアップした印象である。もしかしたら一過性のものとして消えてしまう可能性だってあったバンドなのに、こうしてしっかりと蘇ってきたわけだからもうこのバンドに敵なし、的な勢いなのではないだろうか。とか物凄く感動&興奮しながらクレジットを見たらプロデュースがZdarだった!最近でもPhoenixとかやってたけど、思えばわが青春のフレンチ・タッチ、SuperdiscountにMotorbassにCassiusの彼なのだ!んー、さすが、の一言である。