Boulevards Of Magadan

ということで日曜日にはDamon And Naomiのライヴを見てきたのであった。

Ghostのメンバーを含む古楽器アンサンブル、YOSの奏でる見慣れない楽器による曲群を楽しんでいたらあっという間にDamon And Naomiのライヴが始まった。初めて見たのだがNaomi嬢が細くて背が高い、というのがまず最初の驚きであった。

編成はDamon氏のアクースティックギターとNaomi嬢のシンセ、というシンプルにもほどがある編成であった。ライヴアルバムとはまた違う楽器編成だったのでどうなるのかな、と楽しみだったのだが、一発目のTim Buckley「Song To The Siren」のカヴァーが始まった瞬間に全身に変な鳥肌、というか震え、というかそういうものが走ってしまい、それは結局アンコールの最後まで止まることはなかったのだった。

アルバムよりも、そしてライヴアルバムよりも更にずっとずっとシンプルなアレンジになっているにも関わらず不思議と豊かさは増していて今までCDで何度も何度も何度も聴いた楽曲が新しい印象で届けられる様には本当に感動した。Damon氏のパワフルなストロークもNaomi嬢の控えめな主に下担当のシンセも曲の元々のイメージを保ちながらも新たな印象を与えていたのであろう。まあ、それは多分に私の思い入れが大きく働いていることは否めないし、否むべきことでもないのだけれども。

ファーストアルバムとGhostとの共演盤からは1曲も演奏されなかったものの(逆に結構凝った作りだったセカンドからの曲もやっていたのはちょっと意外だったりしたが)各アルバムから演奏してくれて、大満足であった。途中GhostのメンバーでYOSのメンバーでもある萩野和夫が参加したり、アンコールではYOSのメンバー3人が参加したりしたのだが、基本的には本当に2人の演奏であった。しかし2人のヴォーカルのコンビネーションもぴったりで本当に良いものを見たのう、と変な震えを覚えながら思ったものであった。

今回ライヴを見るにあたって全作品を聴きとおして、そしてライヴを見て感じたのだが、彼らの音楽はどんなに昔の作品であっても決して古さを感じさせることはないのである。また同時にどんなに新しいアルバムをリリースのたびに聴いていても、悪い意味ではなくまるで昔の作品を聴いているような気になったりするのである。明らかに音は進化、深化、もしくは純化しているにもかかわらず。だから決して懐かしさを感じさせたりすることはなく、そして最近の作品の曲でもまるでデビュー期から演奏していたような曲に思えたりするのである。これは勿論私の思い入れのせいでこう思わせられているのであるのは間違いないが、それ故に今回そういう感想を抱くに至ったのであった。思い入れついでに言わせてもらえば私が18歳の時にリリースされた作品More Sad Hitsは既に作品自体18歳でそれ以降共に歳を取り、私が32歳の時の作品Within These Wallsは作品自体既に32歳なのである。で、共にそれ以降歳を取る、と。お読みの方には引かれるかも知れないしお2人にとっても迷惑な思い入れだろうが、どうにもそう感じられて仕方がないのであった。そしてライヴが終わって2日も経った今になって、そういえばGalaxie 500のリズム隊だったんだよな、とか思い出させられたりするのであった。ずいぶん昔の話である。91年に来日が中止になったら解散してたんだよな、とか思い出したり。

ということでライヴの話に戻るのだが、どうしても身体の震えのようなものが収まらないままに終演後、思わず家から持ってきた7インチを手にサインを求めて行ったり来たりしてしまった。ライヴ中のオモシロMCからもわかるようにDamon氏はとてもユーモアに溢れよく笑う人だったし、Naomi嬢も本当ににこやかで優しい笑顔を湛えている女性であった。我が家ではアルバムが全てCDなので大きいサイズのもの、となると7インチしかないので97年にEarwormからリリースされた7インチを持っていったのだが、古いの持ってるねーとか言われ、またジャケは高野山で撮影した、とか写っている手の影はGhostの馬頭氏のものだ、とか色々トリヴィアを教えてもらったのだった。

冷静さを欠いていたあの夜のことを冷静に書くのは不可能なのでこんな思い入れ垂れ流しの文章にお付き合いさせてしまって申し訳ないのですが、少なくとも今年に入ってから1、2を争う幸せを感じた夜であった。だからこそ今週のこの2日間の下らない日々も乗り切れるのであった。

ということでDamon And Naomiのアルバムが常に頭の中で鳴り響いている状態をやっとのことで抜けきってMarc Almondの「Orpheus In Exile」を聴く。新作である。事故後の復帰第一作がカヴァー集であったが、今作もカヴァー集である。Vadim Kozinというスターリン時代に活躍したロシア人歌手の曲だけを集めたアルバムである。ロシア色濃厚なアルバムと言えば「Heart On Snow」Heart on Snowに続く作品、1人のレパートリーをカヴァーしてアルバム1枚、と言えば「Jacques」Jacquesに続く作品である。オリジナルアルバムを聴きたいのう、という気もしないでもないのだが思えばSoft Cell時代からカヴァー曲なのに最早自分の曲に完全にしてしまう人なので全然大満足で無問題、なのである。ということでこのアルバムも言われなければカヴァー集とは思えないほどに彼のイメージにぴったりな、哀愁漂うロマンティックなメロディ(ワルツ多し)に載せて若干低くはなったかも知れないが相変わらず伸びやかなMarc Almondの美声が乗っかる、という悪いファンにはそれだけで十分な作品に仕上がっている。はい、だから私のような人間には十分なのです、はい。さすがに原曲は全く知らないのだけれども寂しげな歌詞も含めて、間違いない楽曲だらけで相変わらずこの人の自己表現力の確かさには恐れ入るばかりである。ちなみにこの原曲を歌っていたVadim Kozinという人はロシア最初のゲイ・イコンとも言うべき人だったようで、それも含めていやはやなんともどこを取っても彼の作品として間違いないアルバムに仕上がっているのだった。微妙にジプシー調だったりする辺りがまたなんとも胸締め付けられるのだなあ。

と今日はどこを取っても私の思い入れしか書いていないこの日々散歩で、本当に申し訳ありません。まあ、たまにはこういう日もある、ということで。