The Moon And The Sky

色々思うことはあるのだけれども、最近一番不思議に思うのは、「みんな本当にそんなにAKB48が好きなの?」ということである。

いや、そうじゃない。そういうことを言いたいわけじゃないんだ。たとえば新聞の地方欄の隅に小さく書いてある記事にだって、様々なドラマが存在する、ということを身をもって知ったりすることがある、ということを言いたいのである。例えばそれがひき逃げ事件で身元不明の人が亡くなった、という記事だけであっても。そして、次の日には犯人が捕まって身元も明らかになって、という記事が小さく載っているだけであっても。

その被害者がまさか親戚だった、とかそういう展開になってくると俄然その小さな記事に収まってしまうのが不思議なくらいに様々な思いやら感情やらが去来するものである。できれば経験したくはなかったことなのだけれども、逆に、そういうことってあるんだなあ、とか変に客観的になってしまったのであった、不思議なことに。

しかし本当に世の中、まだ死んではいけない人ばかりが次々と亡くなっていく。そういう人たちよりも先に死ななければならない、もうこの世の中にいてはいけない連中はわんさかいるのにそういう連中は今日も偽善の面を被ってのうのうと生き永らえていくのだ。ただただ空しい気持ちになってくるものである。

しかしそんな空しさを埋めるべくSadeの「Soldier Of Love」を聴く。約10年ぶりの新作である。デビューした頃は結構コンスタントにリリースしていたものだが・・・。それでも前作Lovers Rockは10年間忘れることのできない大傑作だったわけで、だからこそ10年ぶりでも思わず発売日に入手してしまったりするのである、今作も。彼女たちの音楽は甘い。しかし常にその甘さは苦さと混ざり合っているわけで、それがお互いをよく引き立てあっているわけである。そして何故か昔からSadeの音楽には背筋が伸びる思いがするのである。決してリラックスすることはできない。もしかしたらAdu嬢(とはいえもう50歳か)の声質の問題なのかも知れないが、それはこの新作でも変わらない。ゆったりとした全体の空気は決して弛緩することはなく、且つビタースウィート、ビター強め、である。今までと大きく作風が異なる、なんてことは今更なかったのだけれども、ボトムが更にぶっとくなり、安心して聴ける。楽しげなレゲーのりのチューンもあるのだが、基本的にはしっとりとしたナンバーが続いていく。しかしそれでもBGMとして決して聞き流せる類の音楽ではない。こういうビシっとした、凛とした音をこちらにきちんと響かせることができる限り、次のアルバムまで10年待っても構わないかもなあと思わせられる傑作。