Maggie

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『レコードは死なず』という本を読んだ。
レコードは死なず (ele-king books)

レコードは死なず (ele-king books)

 

ざっくりと説明すると、売り払ってしまった自分のレコードを買い戻す、というエリックさんのお話、というか実話、である。しかしこの説明ではちょっと不正確、である。正確には、自分が売り払ってしまった「そのものの」レコードを買い戻す、つまりジャケットの落書きや汚れ、盤の傷や針飛び、匂い、などもそのまま同じの、かつて自分が所有していたレコード、それを買い戻す、ということである。

 

これがどれほど大変なのか、そしてどんだけのおかしな話なのかは、そのことで本が1冊ここにあるくらいなので想像を絶するわけだが、正直に言えばちょっと引く。でも引くくらいだからこそ面白いし、その狂気にも似た何かは、ああ、認めたくはないんだけれども、くそっ、凄くよくわかってしまう。

 

・・・と本を読むとその文体にも影響されてしまう私なのだが、この本、途中爆笑しながらもぐいぐいと読めてしまい・・・、いや、読むのを止めることを許さないほどの引力で私を惹きつけてきてしまって、実は今週は私の仕事の中でも最も過酷な1週間だったのだけれども、2日で読んでしまった。翌日朝4時半起きなのに1時くらいまで読んだり、もうそういうことが出来る年齢でもないはずなのに何か熱に浮かされたように読んでしまった。

 

勿論様々なロックにまつわる固有名詞がちりばめられていて、それがこの本の面白さに拍車をかけていることは間違いないのだけれども、それを全て差し引いたとしても結構グッとくる話になっているので、誰が読んでも楽しい、と思う。思う、のだけれども例えば『ハイ・フィデリティ』

ハイ・フィデリティ [Blu-ray]

ハイ・フィデリティ [Blu-ray]

  • 発売日: 2012/12/05
  • メディア: Blu-ray
 

の原作であれ映画であれ、ロック関係の固有名詞や主人公のレコードにまつわるオブセッション的な部分、を差し引いて熱狂的に読んだり観ることができるのか、という問いに対して、私はもうそういう「差し引く」ことができない人間なのでよくわからない、と答えざるを得ないのと同様、よくわからない、というのが正直なところである。でも逆に、ちょっとでもレコードとか好きだったりしたら、普通にストーリーを追う以上にとんでもなく刺さる部分が増幅されてこちらに迫ってきてしまう、ということが断言できるから、私としては絶対に読んだ方が良い、と言うことしかできないのだ。

 

あと私が多分年齢的にも近い(5歳ほど彼の方が上だけれども)と言う部分、そしてヘテロセクシャルの男性、ということも、これは読み終えてから考えたことなのだけれども、ちょっともしかしたら更にこの本がとんでもなく面白く響く結果になっているのかも知れない。The Replacementsしかり、Pixiesしかり、Husker Duしかり、Bon Joviしかり、Neutral Milk Hotelしかり、Screeching Weaselしかり、その他枚挙にいとまない数々の固有名詞が持っている意味だったり、女性との関係での音楽(レコード)を媒介とした記憶だったり。

 

ただ、「そうそうそうそう!!」という「共感」を呼び起こすのではなく(それは多分「全米が泣いた」り、「花束みたいな恋」を描いたりするような方の世界だと思う)、「わかるわ・・・」という若干の仄暗さを伴った、あんまり公言したくないような、言語化できないような、名づけえぬ、自分でもよくわかっていないような心の奥底の方にいつの間にかしまわれてしまっていた何かが奔流となって溢れ出て来て、40代半ば、そして既に父を亡くしているような、私を飲み込んでしまったのだと思う。

 

もしかしたら何を言っているのかしらこの人・・・、と思われる向きもあるかも知れないけれども、この拙ブログに興味を持って読んでいるような方々には、まあまずは読んでみて、何となくわかるから、と言えることは確実である。保証する。そして面白い、と絶対に思うはずだから。

 

ということで今週はこの本で乗り切った、と言えるくらいに感謝すべき本なのだけれども、バディ・ホリーがプリンスの「ダーリン・ニッキー」をカヴァー、というくだりは、それ無理じゃね、どういうことなんだろ、と喉に魚の小骨が引っかかったような気持ちなのでまた読み返してみなくちゃ、っつーか原書 

(日本語版のよしもとよしともの表紙もまあ良いけど、こっちの原書の表紙の方が内容にかなりリンクしてるし魅力的に思えるな)にもなんだかあたってみた方が良いのか、でもこの特筆すべきぐいぐい読める要因は何よりもこのスムーズな訳のおかげだな、さすがあの名著の名訳

でお馴染みの浅倉卓弥さん・・・、とか思わせられたりで、まだまだこの本からはぜんっぜん抜け出せないようである。まあ、抜け出せない、のだけれども今、更に強烈な本 

を夢中になって読んでいるフェーズに間髪入れずに突入してしまったので、読書しながらの巣籠り生活が加速しそうだな・・・。

 

ということでSam Amidonの「Sam Amidon」を聴いている。

Sam Amidon [Analog]

Sam Amidon [Analog]

  • アーティスト:Sam Amidon
  • 発売日: 2021/01/29
  • メディア: LP Record
 

Beth Ortonの旦那さんとしても知られる(彼女も今作に参加)、フォーク~トラッドを得意とする彼の9枚目?のアルバムである。実は前作

The Following Mountain

The Following Mountain

  • アーティスト:Amidon, Sam
  • 発売日: 2017/06/02
  • メディア: CD
 

から聴き始めた新参者であるが、全曲カヴァーのこのアルバムはめっちゃ面白いのでアナログで今年に入ってから入手して以来、ずーっと聴いている。前作はMilford Graves(!)が参加していたり、と言う組み合わせの妙も冴えわたってなかなかに良い意味でめんどくさいアルバムであったが、今作でもフォークソングやらTaj Mahalの曲などをめちゃくちゃ現代的に再構築していて凄く聴きごたえがある。ファンキーになっていたりアンビエントっぽくなっていたりサイケデリックだったり、曲毎にアプローチが異なっていて飽きない。しかもよくある現代風、ってことで単に打ち込みましたよ、という音バキバキ、というわけでは全然なく、ダイナミックなバンドサウンドになっていたりして(Sam Gendel

Satin Doll [Analog]

Satin Doll [Analog]

  • アーティスト:Sam Gendel
  • 発売日: 2020/03/13
  • メディア: LP Record
 

も参加)していて痛快である。10代の頃に知った曲だったり、そのように慣れ親しんだ曲が骨肉化された上での新たな解釈、故に迫力が違う、ってことなんだろうなあ、とひどく納得する快作。彼の歌声がJames Taylorに聴こえてしまうような瞬間があったり、そして不思議と爽快な感じが全体を覆っているので何だかその凄みのわりに軽やかで、良いよねえ・・・。